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Let's コミュニケーション![第3回]
「真面目」は困ります

-人の目を見て仕事しましょう-

 「お前は、気が利いているように見えて、間が抜けてるんだよ! もっと人の目を見て仕事しろ!」

 大学時代にアルバイトをしていた出版社で、ぼくが毎日のように社員さんから言われたセリフだ。書店周りの営業アシスタントだったぼくは、トンチンカンな失敗を次々にやらかしては、会社に迷惑をかけてばかりいた。ぼく自身はごく真剣に仕事に取り組んだつもりで、何でそんなにキツく言われるんだろう、とさえ思っていたのだけれど、振り返るとそれは「真面目」に取り組んでいる自分をアピールするだけの仕事もどきでしかなかった。ちなみにそのアルバイト先は1年半で、めでたくクビになった。

 「真面目」は美徳だ。たとえば、無遅刻・無欠勤、昼休みはジャスト1時間で戻って来て、残業時間も皆無。上司にとってこんな部下は理想だろう。

 ところが、真面目であることが「目的」になってしまうと話がおかしくなる。どんなに仕事が立て込んでいようが定時出勤、定時退勤。営業マンなのに先輩から受け継いだ得意先だけを相手にし、新規開拓先をぜんぜん探してこないので問いただすと「余裕がありません」。昼休みついでに飛び込みに行ってみれば、と言うと「昼休みは1時間以内と就業規則にありますから破れません」。あきれた上司が、午後に小一時間でもいいから外回りして来いよ、結果が出れば残業代も払うから、というと「小一時間とは何分程度ですか」と聞いてくる……

 冒険しないぶん失敗も目立たず、はた目には働いている「ように」見えるので、この手の社員はクビにもならず、じわじわと会社をむしばんでいく。周りのスタッフがたびたび尻ぬぐいに追われて職場のモチベーションも下がっていくが、本人がそれに気づくことは滅多にない。自覚がないのがこの手の人物の特徴で、だからこそ厄介なのだ。

 私がつい最近見かけた例も挙げておこう。路線バスをバス停にぴったり正確に横付けする「真面目」な運転手さんに遭遇したが、非常に迷惑だった。そのバスは車体中央に乗り口があり、そこがバス停の時刻表示板にちょうど重なって、身をよじりながら乗らないといけなかったのだ。一緒に乗ったお年寄りは特に難儀そうだったが、運転手さんはまったくお構いなし。これこそ「お客の目を見ていない」仕事ぶりだと思った。

 最後に。ビジネススクールでよく取り上げられる議論に、社員を4つに分類してどれが良い人材か、悪い人材かというものがある。「勤勉で有能」「勤勉で無能」「怠惰で有能」「怠惰で無能」の4タイプだ。ここまでこのコラムを読んできた方なら、会社にとって最も害があるのは「勤勉で無能」タイプということがすぐにお分かりだろう。このタイプの社員は、本人が真面目に働けば働くほど、自覚のないまま会社に実害を与えていく。そう、かつてそうだった私自身が言うんだから間違いない。(ちなみに「怠惰で無能」タイプは、的確な命令さえ与えておけば、効率は別として害にはならない働きを示すそうです)

 勤勉だけど無能、会社に害を与える「真面目ちゃん」にならないためには、ビジネスパートナーであれ顧客であれ、相手の目を見て仕事をすることだ。自分がいま何を求められているか、何を優先すべきか。答は必ず、その視線の先にあるはずだから。
 

コラムニスト:山本 耕一 氏プロフィール

山本 耕一
[Kouichi Yamamoto]
1967年福岡県北九州市生まれ。
中学校時代、短波ラジオで世界中の放送を聴くうち「アナウンサーになろう」と決意。日本大学卒業後、テレビ長崎入社。「めざましテレビ」初代長崎リポーターなどを務め、2003年からフリーアナ。
現在は福岡のテレビ・ラジオにレギュラー出演のほか、アナウンサー・声優志望者の発声・コミュニケーション術・就職指導も担当。
気象予報士。家族は妻と2男。

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