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第5回 間違いやすい敬語(3)

ここでは、敬語の考え方や誤りやすい敬語の使い方を、ショートムービーで学べる文化庁のホームページ「敬語おもしろ相談室」より要約してご紹介いたします。

間違いやすい敬語(3)~ 謙譲語Ⅰ  VS  謙譲語Ⅱ ~

今回は、謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱとの違いについて紹介しています。
謙譲語は、一般的に「へりくだる言葉」と理解されています。その中には「謙譲語Ⅰ」と「謙譲語Ⅱ」があって、立てる対象、意識する対象が違います。

謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱの違い

【謙譲語Ⅰ】
立てる対象→行為・物事の「向かう先」
『伺う』『申し上げる』『お届けする』
 
【謙譲語Ⅱ(丁重語)】
意識する対象→会話や手紙の「相手」
『参る』『申す』『いたす』
 
 
加藤先生に向かって、もう一人の恩師である田中先生のことを話題にして「明日は、田中先生のところに参ります」と言いました。田中先生を十分に高める気持ちで言ったのですが、これで良かったのでしょうか。
 「参る」は謙譲語Ⅱです。つまり相手に対して改まって伝えるための敬語であって、話の中に出てくる第三者を立てるための敬語ではありません。したがって、この言い方では、田中先生を立てることはできません。田中先生を立てるのであれば、「田中先生のところに伺います」と言えば良いでしょう。「伺う」は謙譲語Ⅰであり、<向かう先>の人を立てることができるからです。

例えば、「田中先生」を「弟」に入れ替えて、「弟のところに参ります」と言ったとき、「弟」を立てていると感じる人はいないでしょう。仮に「参る」が話の中に出てくる第三者を立てる敬語だとすれば、自分の「弟」には使うことができないはずです。


 
 ところが、「弟のところに伺います」は、明らかな誤用であるのに対して、「弟のところに参ります」は問題のない敬語の使い方です。「参る」は、あくまでも「加藤先生」に対して丁重に述べる敬語として働いているのであって、話の中に出てくる第三者である「弟」を立てる働きはないのです。したがって、同様に、第三者である「田中先生」も立てる働きはないと言えるわけです。
 
以上述べたことを整理すると次のようになります。(いずれも、会話の相手は加藤先生。)

(1)田中先生のところに参ります
加藤先生に対して丁重に述べたもので、田中先生を立てているわけではありません。

(2)弟のところに参ります。 
加藤先生に対して丁重に述べたもので、自分の弟を立てて述べているわけではありません。全く問題のない用法。

(3)田中先生のところに伺います
田中先生を立てて述べたもの。

(4)弟のところに伺います
自分の弟を立てて述べることになるため、誤用となります。
 
 
社長から、課長である私が、部下に企画をもっと積極的に出せと指示しておくように言われました。「はい、そのように申し伝えておきます」と返事をしたのですが、適切でしょうか。これでは部下を高めることになってしまうのでしょうか。
 「参る」や「申す」など、本来自分に使う敬語が入っていますが、「申し伝えておく」というのは、「そのように部下に言っておく」あるいは「そのように部下に伝えておく」ということを、「申す(謙譲語Ⅱ)」という敬語を使って表現したものです。つまり、ここでは、「相手」である社長に対して改まって述べたものであって、その<向かう先>である「部下」を立てるものではありません。したがって、問題のない使い方です。
 
 謙譲語は混乱しやすいですが、立てる対象や意識する対象をしっかり把握することが大切です。
 
【質問】
「御持参ください」、「お申し出ください」、「お申し込みください」などといった言い方は、適切でしょうか?
 
【答え】 問題ありません
「参る」や「申す」は、謙譲語Ⅱに当たる敬語です。しかし、「御持参ください」、「お申し出ください」、「お申し込みください」などといった表現の中に含まれる「参る」や「申す」は、謙譲語Ⅱとしての働きは持っていないと言ってよいでしょう。したがって、これらの表現を「相手側」の行為に用いるのは問題ありません。
「御持参ください」「お申し出ください」という表現が気になる場合には、「お持ちください」「おっしゃってください」などと言い換えれば良いでしょう。「お申し込みください」は、状況によっては「御応募ください」などに代えることができます。

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