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Let's コミュニケーション![第5回]
ミスの謝り方

-失敗は評価アップのチャンス-

 危機管理の大原則に「人間はミスをし、機械は故障する」という概念がある。この前提を踏まえて、システムの安全性を構築しなくてはならないということだ。加えて統計によれば、安定稼動しているシステムの中で機械が1回故障する間に、人間は数百回のミスを繰り返すこともわかっている。社会のあらゆる局面で、日々大小の人為的ミスが繰り返し発生しているというわけだ。

 「ミスは必ず誰しもがするもの。しかし、そのミスをどうフォローするかでその人の評価が決まるんだよ」

 会社員時代、上司から繰り返し言われたのがこの言葉だった。

 しかし現実にはなかなか難しい。こんなミスひとつで評価が下がるなんて我慢できない。たまたま悪条件が重なったんだ。オレのせいじゃない……。ちっぽけな自尊心が、ミスを認めて素直に謝ることを妨げる。しかし、プライドに負けて初期対応を間違えると、小さな火種が大炎上につながってしまう。たとえば、ユッケで食中毒を起こした焼肉チェーン店の若手経営者が、最初の会見で自己を正当化するような発言を繰り返し、世間の反発を買って最終的に廃業に追い込まれたケースは、最悪の初期対応と言えるだろう。

 では、おかしてしまったミスにどう向き合うか。

 まず、不手際や失敗、落ち度を全面的に認めて、出来るだけ早い段階で素直にハッキリと謝ること。できれば相手がこちらのミスに気づく前に報告や謝罪がベターで、時間が経てば経つほど謝りにくくなっていく。迅速さが肝心だ。

 次に、自己を決して正当化しないこと。「突然のことでパニックを起こして。どうかしてたんでしょうか」「悪いときには悪いことが続くものですね」自分がしでかしたミスをまるで第三者的に「評論」してみせたところで、ミスが帳消しになるはずがない。理不尽なクレームは別として、ほんの少しでも自分に落ち度があるならば、まずは素直に「すみませんでした」と頭を下げるべき。言い訳を述べたくなる気持ちもわからないではないが、事態を炎上させる燃料となるので口にすべきでないことは、先に書いた焼肉チェーン店の食中毒のケースでも証明済みだ。

 最後に、謝罪対象の気持ちが落ち着くのを待ってから、今後ミスをなくしていくための対処方針について、真摯(しんし)に語ることが大事だろう。「今回みたいなことはレアケースでしょうから、次は大丈夫だと思います」などというあいまいで情緒的な善後策を示されても、相手が納得するわけがない。ミスをミスのままで終わらせず、評価を反転させるチャンスととらえて、全力で改善に取り組む姿勢を示すことが重要になる。

 ちなみに、様々なクレーム処理を企業にアドバイスするコンサルタント業者にきいたところ、100点満点の「謝罪」は歌手の川中美幸のそれだという。西暦2000年に夫が覚せい剤取締法違反で逮捕され、その謝罪会見で川中美幸は大粒の涙を流しながら30分以上にわたってひたすら夫の犯罪を謝り続けた。そして夫の更生に全力を傾けることを誓い、夫婦の絆がゆるがないことを丁寧に取材陣に語った。この涙の謝罪会見を見た世間は、彼女に対し、けなげに夫に尽くす良妻のイメージを強く持つことになった。薬物事件で夫が逮捕、という大スキャンダルだったにもかかわらず、川中の評価は急上昇。大衆の支持を取り付けた彼女は1年後の紅白歌合戦に出場、寄り添う夫婦を描いた「二輪草」を熱唱しながらまた大粒の涙を流して、一連の「謝罪」ドラマを完結させた。

 迅速に謝り、一切の言い訳をせず、真摯にミスと向き合う姿勢を見せて評価を反転アップ、まさしく王道の対応といえる。この3つができさえすれば、ミスをおかした後に「災い転じて福となす」を実現できるだろう。
 

コラムニスト:山本 耕一 氏プロフィール

山本 耕一
[Kouichi Yamamoto]
1967年福岡県北九州市生まれ。
中学校時代、短波ラジオで世界中の放送を聴くうち「アナウンサーになろう」と決意。日本大学卒業後、テレビ長崎入社。「めざましテレビ」初代長崎リポーターなどを務め、2003年からフリーアナ。
現在は福岡のテレビ・ラジオにレギュラー出演のほか、アナウンサー・声優志望者の発声・コミュニケーション術・就職指導も担当。
気象予報士。家族は妻と2男。

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