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第2回 敬語のTPO ~依頼の仕方~

ここでは、敬語の考え方や誤りやすい敬語の使い方を、ショートムービーで学べる文化庁のホームページ「敬語おもしろ相談室」より要約してご紹介いたします。

敬語のTPO ~依頼の仕方~

今回は、依頼の仕方と「させていただく」の使い方について紹介します。
それ、取ってもらってもいい(ですか)」「こちらの書類に書いていただいてもよろしいですか」というような言い方をよく耳にします。「取ってちょうだい」や「取ってください」、「書いていただけますか」に比べると、何だか回りくどい言い方に聞こえてしまいます。こうした表現については、どう考えれば良いのでしょうか。
 基本的に「~てもいい(ですか)」「~てもよろしいですか」などは、自分のすることについて、相手の許可を求める言い方です。しかし、「取ってもらってもいい(ですか)」という表現は自分が取るのではなく、相手が取ることを要求しているものです。したがって、「取ってちょうだい」や「取ってください」という依頼や指示の表現と同じ内容を表すものです。そのように、本来なら依頼や指示の表現で済むところを、許可を求める表現に変えているということになり、その分だけ、「回りくどい」印象を与えるのだと言えます。  指示や依頼が簡潔にできる状況であれば、こうした回りくどい印象を与える表現は用いない方が良いでしょう。

このような、依頼や指示を「許可を求める形」で行う表現は近年よく耳にするようにりました。

例えば、「取ってちょうだい」「取ってください」といった表現は、相手に直接働き掛けているものです。それに対して、「取ってもらってもいい(ですか)」という表現は、(自分が)取ってもらえるかどうかを尋ねる形に変わっているのです。そうすることで、相手に対して押し付けるような印象をなくし、相手への配慮を表そうとするのではないかと考えられます。これが、回りくどい、言い換えれば、婉曲的な表現をしようとする主たる理由でしょう。

これは、「~てもよろしいですか」についても同様です。「書いていただいてもよろしいですか」も、「書いていただけますか」という依頼の敬語表現と伝えたいことは同じ内容だと言えますが、相手に許可を求める表現に変えることで、より丁寧な言い方にしようとしたのだと考えられます。
さ)せていただく」を余り使わない方が良いと聞きましたが、実際には、見聞きすることが多いと感じます。また、自分でも「それでは、発表させていただきます」などと言ってしまうのですが、どう考えれば良いのでしょうか。
  「(お・ご)……(さ)せていただく」といった敬語の形式は、基本的には、自分側が行うことを、
ア)相手側又は第三者の許可を受けて行い、
イ)そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われます。
したがって、ア)、イ)の条件をどの程度満たすかによって、「発表させていただく」など、「…(さ)せていただく」を用いた表現には、適切な場合と、余り適切だとは言えない場合とがあります。

次の(1)~(5)の例では、適切だと感じられる程度(許容度)が異なります。
 

(1)相手が所有している本をコピーするため、許可を求めるときの表現
「コピーを取らせていただけますか」
―この場合は、ア)、イ)の条件を満たしていると考えられるため、基本的な用法に合致していると判断できます。
 
(2)研究発表会などにおける冒頭の表現
「では、発表させていただきます」
―この例も同様ですが、ア)の条件がない場合には、やや冗長な言い方になるため、「発表いたします」の方が簡潔に感じられるようです。
 
(3)店の休業を張り紙などで告知するときの表現
「本日、休業させていただきます」
―この例は、条件を満たしていると判断すれば適切ですが、(2)と同様に、ア)の条件がない場合には「休業いたします」の方が良いと言えるでしょう。
 
(4)結婚式における祝辞の表現
「私は、新郎と3年間同じクラスで勉強させていただいた者です」
―(4)の例は、ア)とイ)の両方の条件を満たしていないと感じる場合には、不適切だと判断されます。ただし、結婚式が新郎や新婦を最大限に立てるべき場面であることを考え合わせれば許容されるという考え方もあり得ます。
 
(5)自己紹介の表現
「私は、○○高校を卒業させていただきました」
―この例も、(4)と同様です。
ただし、(5)については、「私は、卒業するのが困難だったところ、先生方の格別な御配慮によって何とか卒業させていただきました。ありがとうございました」などという文脈であれば、必ずしも不適切だとは言えなくなります。
 なお、ア)、イ)の条件を実際には満たしていなくても、満たしているかのように見立てて使う用法があり、それが「…(さ)せていただく」の使用域を広げています。上記の(2)~(5)についても、このような用法の具体例としてとらえることもできます。その見立てをどの程度自然なものとして受け入れるかということが,その個人にとっての「…(さ)せていただく」に対する「許容度」を決めているのだと考えられます。
【質問】
図書委員会の仕事で、同級生の委員に文書の作成を頼む言い方。 「これ、やってよ」は適切?
 
【答え】 適切ではない
依頼という行為は相手に負担をかけることになるので、相手に配慮した前置き(「すみませんが」など)や婉曲的な表現(「お願いできますか」など)が必要です。依頼することが当然のように聞こえるので、これは不適切です。

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