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Let's コミュニケーション![第4回]
「コンサマトリー・コミュニケーション」って?

-公的・私的の使い分け-

 「いやーオモシロかったけど、こーゆーオモシロさって他人に言ってもわかんなくね? つーか作るほうも、わかるヤツだけわかればイイって考えてるに違いないに100万ガバチョ! ってことでwww」
うーん。家でこの文を読みながら、僕はため息をついた。これはツイッターやフェイスブックに書き込まれたものではない。専門学校の学生たちにコミュニケーション学習の一環として課した「映画感想リポート」で提出された文章なのだ。

 僕はもう一回大きく息を吐いてから、リポートの余白に赤ペンで次のように書いた。「リポート課題は、公式な文書です。友人とネットで感想をやり取りするのとは違います。あなたは、公的な場と私的な場の“切り分け”が出来ておらず、このままでは社会に出たときに非常に苦労すると思いますよ」と。

 この、文章上における公私の区別といえば、先ほどの例ほどひどくなくても、上司にビジネス文書を書くよう命じられた新入社員が文中に「ぶっちゃけ」「(笑)」などと書いて大目玉を食うという話をしばしば耳にする。どうしてこうなるのか。

 コンサマトリー・コミュニケーション、という言葉をご存じだろうか。

 コンサマトリーは直訳すると「自己充足的」という意味で、コンサマトリー・コミュニケーションとは、その時々に何かとつながること自体を目的とするやり取りのことだ。

 若者がショートメールを打つ。「起きてる?」「いま起きた」「眠いね」「うん、眠い」。あるいはフェイスブックで友人の日記を読んで美味しそうな料理の写真に「いいね!」ボタンを押す。多くの場合、これらに特段の目的はない。友人の睡眠時間が何時間なのか、写真の料理を出す店の場所は、といった細かい情報はあまり重要でなく、相手とつながっていること自体が目的なのだ。さらに言えば、そこで大切なのは相手の存在ではなく、誰かとつながっている自分自身。まさに自己充足的で、ごくごく私的な発信だ。

 これに対して、情報を交換・伝達することを主眼とするコミュニケーションを「インストゥルメンタル・コミュニケーション」と呼ぶ。ビジネスの場で求められるのは多くの場合、こちら。何らかの目標を前提として、情報を他者と的確に交わして共有する、非常に公的なコミュニケーションだ。

 つまりは、“切り分け”の出来ない若者は、就職するまでコンサマトリー=私的な情報共有の世界だけにどっぷりひたって、情報発信に公私の別があることさえキチンと認識していないのではないか。たとえば最近、従業員が店に来たスポーツ選手のデートの様子をツイッターに書き込んで大炎上、なんて話がよくあるが、友人同士で交わす内輪の噂話=私的シーンと、世界に発信されるネット上の発言=公的シーンの区別がついていない証拠と言えるだろう。

 ただ、コンサマトリーなコミュニケーション自体が悪いわけではない。「きょうはいい天気ですね」「そうですね」というのは実にコンサマトリーなやり取りだが、相手との距離感を縮め、話のきっかけを作ってくれるという点でそれなりに有用だ。 

 上司の皆さん、最近の若者はビジネス文書の書き方がなってないとお怒りになるのはごもっとも。ただ、ずーっとコンサマトリーな世界で過ごしてきて、インストゥルメンタルなコミュニケーションに慣れていないだけかも。長い目でじっくり教えてあげてください。あ、若者はビジネス作法としてのインストゥルメンタル・コミュニケーションを早く覚えましょうね。甘く見てもらえる期間は、そう長くはないですから。
 

コラムニスト:山本 耕一 氏プロフィール

山本 耕一
[Kouichi Yamamoto]
1967年福岡県北九州市生まれ。
中学校時代、短波ラジオで世界中の放送を聴くうち「アナウンサーになろう」と決意。日本大学卒業後、テレビ長崎入社。「めざましテレビ」初代長崎リポーターなどを務め、2003年からフリーアナ。
現在は福岡のテレビ・ラジオにレギュラー出演のほか、アナウンサー・声優志望者の発声・コミュニケーション術・就職指導も担当。
気象予報士。家族は妻と2男。

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