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第6回 場面で異なる敬語 ~ウチとソト~

ここでは、敬語の考え方や誤りやすい敬語の使い方を、ショートムービーで学べる文化庁のホームページ「敬語おもしろ相談室」より要約してご紹介いたします。

場面で異なる敬語 ~ウチとソト~

今回は、ウチ扱いにするか、ソト扱いにするかで使う敬語が変わってくることについて紹介しています。
 
自分の家族について改まった場面で話すときには、「父・母」と呼ばなければいけないのでしょうか。
ふだんは、「お父さん・お母さん・おじいさん・おばあさん・伯父(叔父)さん・伯母(叔母)さん・お兄さん・お姉さん」などと話し掛けている相手を、「ウチ扱いの人物(=自分側の人物)」とする場合には、「父・母・祖父・祖母・伯父(叔父)・伯母(叔母)・兄・姉」と言うことになります。例えば、改まった面接などの場面で、自分側について言及するときには、基本的に「父・母」のように言う方が良いでしょう。
 ただし、日常生活の場で、相手が親しい関係のときには、「父・母・祖父・祖母」などの言葉を使うと、やや改まり過ぎていると感じられるかもしれません。そのときには、状況に応じて、「父親・母親・おやじ・おふくろ・おじいちゃん・おばあちゃん」などといった言葉を使い分ければ良いでしょう。
 
保護者からの電話で、同僚の田中教諭の不在を伝えるときに、「田中先生はおりません。」と伝えましたが、それで良かったのでしょうか。それとも「田中はおりません。」と伝えた方が良かったのでしょうか。
この場合、「ウチ・ソト」の意識に基づけば、同僚の田中教諭は「ウチ」の人であり、保護者を相手とする場合には「田中先生はおりません。」ではなく、「田中はおりません。」と伝えた方が良いでしょう。
 同僚の田中教諭に関して「田中先生はおりません。」と敬称を用いた表現は、身内の人物は立ててはいけないという「ウチ・ソト」の意識からすれば問題があります。しかし、文化庁の「国語に関する世論調査」によれば、生徒の保護者に対しては「田中」ではなく、「田中先生」という言い方を支持する人が多いようです。学校では、「ウチ・ソト」の意識よりも、生徒を基準にして、その教師であるという点を優先させるからだと考えられます。なお、「田中」ではなく、「田中教諭」と職名で呼ぶ方法もあります。この場合は、「ウチ・ソト」の意識から離れ、中立的な言い方になると言えましょう。
 
自分が日常は敬語を使って話している田中部長のことを、取引先の社員に話すときにウチ扱いにすることは分かるのですが、「田中」と呼び捨てにするのはどうも抵抗があります。特に田中部長が同席しているときに、「田中」とは言いにくいのですが、どう考えれば良いのでしょうか。
「田中部長」をウチ扱いにする(自分側の人物として扱う)ときには、「田中」と呼ぶことに問題はありません。ほかにも、「部長の田中」というように、「部長」を職階として示した上でウチ扱いにして呼ぶことができます。ただし、「田中部長」と呼ぶことは、ウチ扱いにした呼び方にはならないので、不適切です。
 上司である田中部長のことを「田中」と言うのは、心理的な抵抗はあるかもしれませんが、飽くまでも「ウチ・ソト」の関係でとらえた表現なのであって、田中部長を呼び捨てにすることとは全く異なります。

社内の忘年会で司会をすることになりました。最初に、社長からのあいさつがあるのですが、その時、「社長からごあいさつを頂きます。」と「社長からごあいさつを申し上げます。」のどちらを言えば良いのでしょうか。また、社外の人が多くいる会で司会をすることになった場合は、どうすれば良いのでしょうか。
社員だけの忘年会などの場合は、社長を立てる敬語を用いて「社長からごあいさつを頂きます。」と言えば良いでしょう。また、社外の人が多くいる会の場合には、その人たちを立てる敬語を用いて「社長からごあいさつを申し上げます。」と言えば良いでしょう。
 「社長からごあいさつを頂きます。」の、「いただく」は謙譲語Ⅰであり、社長を立てる敬語です。「ごあいさつ」も社長を立てる尊敬語となります。社員だけの忘年会などの場合には、会社内での立場だけを考慮すれば良いので、あくまでも社長は立てるべき存在となります。したがって、「社長からごあいさつを頂きます。」が適切な表現となります。
 一方、「社長からごあいさつを申し上げます。」の「申し上げる」も謙譲語Ⅰですが、こちらは<向かう先>となる人たちを立てる敬語です。また、ここでの「ごあいさつ」は<向かう先>となる「あいさつを聞く人たち」を立てる謙譲語Ⅰです。社外の人が多くいる場合には、会社のウチ・会社のソトといった関係が生じるので、「ウチ」の社長は立てない方が良いでしょう。したがって、「社長からごあいさつを申し上げます。」の方が適切な表現になります。
【質問】
取引先に対して自分の上司の予定を「来週、部長の金子は、海外にいらっしゃいます」という説明は正しい?
 
【答え】 不適切
正しくは、「来週、部長の金子は海外に参ります。」
上司である「金子部長」に対して尊敬語を使いたいところですが、「取引先の社員」の前では、「金子部長」は「ウチ」側の存在となりますので、立てて表現するのは不適切です。
 本コラムは今回が最終回です。文化庁のサイト「敬語おもしろ相談室」には、これまで掲載した内容が動画で詳しく解説されていますので、ぜひ一度ご覧ください。

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